2015-11-21 日本科学哲学会シンポジウムのメモ
講演:保前文高「言語獲得の発達脳科学」
- 脳科学と芸術、という本の中に論文がある
- 言語発達脳科学とコンパクトに言ったりする
- 言語科学教室というのは生成文法を中心の言語理論の専門家と
- 脳を中心にアプローチする脳科学の専門家がいる
- この人は脳を中心にしている
昨年9月からそういう研究センターを作った
- 生物系の遺伝学の人、保険の人、医学研の人、理研の人がいる
- 遺伝的なバックグラウンドと脳の話を研究してる
- センターと名前があるのはいいんだけど建物がない
脳を知ることから言語機能がどうなのかを知りたいと考えている
- 言語処理に関わる脳の領域の特定
- だけではなく、脳の形成とともに生じる言語機能を探るというアプローチ
- ニューロンの電気的な活動が知りたい、とくに人におけるニューロンを知りたい
脳の活動を調べる方法としては
脳のことを知りたいのはとくに赤ん坊
- 3ヶ月の赤ん坊はまったく言葉がわからない
- でも表情や視線や身体の動きや泣き声でわかる
- 3ヶ月くらい過ぎると目を向けて注目できるようになる
de Boysson-Bardies 1996 で言語発達の過程(2歳まで)が整理されている
- 伝統的にはピアジェから来ている
- 10-12ヵ月で最初の言葉が出てくる
- 「要約 ー 0歳から2歳までのコトバの発達の主要段階」という日本語資料
- 生後1ヶ月の時点で言葉の対立のカテゴリー的弁別ができているっぽいということが
- 1971年の時点で明らかになっている
- 音声の識別は1~5ヵ月くらいにはきちんとできるようになっているとかいないとか
Dehaene-Lambertz et al. 2002,2006
- 行動計測から脳機能計測へ
- 音声を提示された時の3ヶ月次の脳の活動を計測
- fMRIで計測すると左半球の側頭領域が活動を示した(成人と同じパターン)
- Remez et al. 1981
- 音声に似ていて音声ではない語(SWS)の弁別
- Where were you a year ago?
- 言われればわかる
- 音声として受け取ると、脳の活動が増加する
- わかるようになる前と後で活動の仕方が違う容認鳴る
- Left posterior STS の活動
- 光トポグラフィを付けて計測する
- 48箇所
- 音声やSWS(sign wave speech)どちらを聞いても左右両方の聴覚野が活動する
- 3ヶ月児の左半球の側頭領域の後方部は、音声を特別な方法で処理している
3ヶ月児の言語音知覚
- 側頭葉における機能分化
- 側頭葉、頭頂葉、前頭葉を含んだネットワーク
- 発達過程にある脳そのものを知る方法がある
- Homae 2014, 2007?6?くらいに図がある
化石魚、ユーステノプテロン デボン紀、約4億年前
- この化石を見て骨を見ると、どこに脳があったかを推定できる
- ヒトとユーステノプテロンの脳の基本的な構造は変わっていない
- 中脳、橋、延髄、小脳みたいな構造
- ただし大きさの比率や見た目はかなり違う
- イルカの脳がとても大きい
- 基本的な形は少し違う、パーツの並びは同じ
- ラットやウサギの脳はかなりつるつるで大脳皮質の皺がない
- 脳溝に大きな違いがある
脳溝と脳回の話、今回は特にシルヴィウス溝の話をします
- 言語に特に重要になる部位
- マウトナーニューロンの話
- 魚が危険と反対方向に進むために筋肉に命令を出すようなニューロン
- ヒトでも大脳のニューロンが反対側を支配していて、マウトナーニューロンに近い交叉性を示している
- 失語症、ブローカの話
- 左半球の前のほうが発話に関係があると特定した
- ウェルニッケ失語
- 発話できるが理解できない患者
- 左半球の側頭葉上部の損傷を発見
- Werinicke-Geschwind model
- 話された言葉を復唱するときのモデル
- 書かれた言葉を読むときのモデル
- 古典的な言語のモデル
- 最近はHickok-Poppel model
- 背側経路と腹側経路
- 今のところこれが割と信頼性の高いモデルになっている
- ブローカ野はチンパンジーにもあるらしい
- 場所は違うもののブローカ野に相当するものがある
- 機能的な名称だけど
- 藤田1997 あたりがブロードマンの地図の霊長類における比較をしている
- ヒトはブローカ野、ウェルニッケ野、角回が大きい
- チンパンジー以降とそれ以前でかなり違う様子
現生人類がいつ言語的な脳を得たのか?
- 頭蓋骨内腔の形状 intractanial endocast から脳の外形を復元する
- Holloway 1974 が比較を書いている
- ブローカ野周辺と角回周辺の体積が Homo erectus くらいから増えている?
- 論争が未だにある
- 結局いつからできたのかということはわかっていない
ヒトの脳ができるまで
- もともとは一本の管みたいな形状をしている
- 5-9ヵ月くらいから脳らしい形になる
- Yamada et al. 2010 胚子期の標本
- Kostovic and Vasung 2009 胎児期のデータ
- シルヴィウス溝ができる時期がポイントになる?
- 胎児の外界の音に対する反応を見たりする
- 灰白質の発達
- ニューロンの数が増えて発達していく
- 脳の自発活動
- エネルギーの60-80%はニューロンやグリアの間の信号のやりとり(自発活動)に使用されている
- 意図的に何かのために使用していなくてもエネルギーを消費している
- Raichle 2011 活動とエネルギー消費の図
自発活動と事象関連の活動の関係
ここから10分くらいは最近やっている話
- 光トポグラフィを用いて、赤ん坊が音声処理をする機能のネットワークについて考えている
- 信号の時間的変化を取って、連続しているところを結ぶことで、機能的な結合性がわかる(?)
- 脳自体が形成されていく過程で、反対側や遠いところでも関連性を持つようになっていく
- 新生児から6ヵ月児になるまで、局所的から大域的(対称的)な機能的クラスタができていく
- Homae et al., 2010
- 脳における機能的なネットワークの中心性
- 領域間の相関関係からネットワーク構造を求めて、構造の中心的役割を果たしている部位(ハブ)を探す
- 音声を処理しているからといってハブ性の高いところが大きく変わるわけではない
- ブローカ野は、他の広い領域から情報を受け取り、情報を伝える領域である可能性がある
- つまり、状態によらずに中継地点となる領域になっている
- 3ヵ月児のブローカ野とつながる領域は、成人と同じ
- 脳の領域間の機能的な形成は、
- 大域的なネットワークが局在している
- ブローカ野は、内発的な機能構造の骨組み鳴る中心になっている
- まとめ
- 発達脳における情報の統合
- 大域化とともに局在化が進んでいくが、その中心的役割を果たす(位置的にほとんど中継的)
- 発達脳の形態形成
- 特にシルヴィウス項の回りのブローカ野や、ウェルニッケ野、角回などがどのように形成されるのか
- 発達脳における情報の統合
- (質問:和泉)時間情報を含めたMerge機能がブローカ野にあるのでは?
- 3ヶ月児くらいだと時間情報を含めた情報処理をしているという証拠があまりないのでこれから